感想:海の見える街

 

海の見える街 (講談社文庫)

海の見える街 (講談社文庫)

 

 

畑野智美さんの海の見える街を読みました。

「大人のための恋愛小説」とあらすじでも銘打っているように、登場人物は25歳~32歳前後の社会人です。

内容は4部構成になっていて、市立図書館の職員4人のそれぞれの目線から、一年間の物語を描いています。

 

舞台は海の見える街。

10年間の片思いに失恋した31歳の本田が一年契約職員としてやってきた春香と出会うことで物語は始まります。

メインとなる登場人物は上の本田、春香に加えて本田に、片思いする日野と危ない意味で子供が好きだが何事も抜かりない松田の4人。

 

この海の見える街、とにかく感情移入がしやすい。

年齢が自分に近い、というだけではなくやり場のない気持ちやそれぞれが持つ悩みが非常に等身大の人物として描かれています。

ずっと10年間好きだった主人公の中に残る未練、環境が変わり勢いで思いを伝えてしまう日野など、共感を覚える場面がいくつもありました。

 

そうした現実にいそうな人物たちの中、異色の存在として職場に入ってきた春香。

彼女は司書をやっている職場の人たちと全く別の価値観を持っていました。

始めはそうした環境に対して理解せず、自分の理屈で行動をしていました。

しかしながら本田、日野、松田たちと接するうちに価値観が広がり、これまでの自分の失敗を冷静に見つめることができます。

 

海の見える街は4人の視点を持ちますが、主人公であり狂言回しとしての役割も持つのが春香です。

それぞれの人物に感情移入しながら、徐々に登場人物に対する読者の理解が春香と共に深まっていき、最後はそうした価値観を携えながら春香の心境の変化を味わうことができます。

この本の最も魅力的な部分は、春香の過去と価値観が自然に移り変わっていくストーリー展開だと私は思います。

これまで自分はこうしてきた、良いか悪いかは分からなくともこれからも自分は自分のまま、という感性で捉えていた春香が、他人と深く分かりあうことで、結果的に自分自身を深く理解することになります。

 

こうした変化は大きな出来事で突発的に起こるのではなく、様々な連続で徐々にグラデーションのように起こりうるのだ。

そしてそうした変化を起こすためには互いに理解しようとする姿勢が大切なのだ、というようなメッセージを持つような恋愛小説でした。

非常に読みやすく、読了後には晴れやかな気持ちになれる小説でした。

 

 

設定・世界観:3/5

感情移入:5/5

ストーリー展開:4/5

読みやすさ:4/5

総合:4/5